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5S運動 しつけ(躾)をどうとらえますか?

スタッフブログ

2025.02.16

 安全衛生に関わる方であればほぼ全員といっていいくらい、4Sや5S運動という用語は聴かれたことがあるはずと思います。

 ちなみに、4Sや5Sを厚生労働省のポータルサイトである「職場のあんぜんサイト」の安全衛生キーワードという用語解説のページから引用して説明しますと、次のように解説されていました。

4S(よんえす)は、安全で、健康な職場づくり、そして生産性の向上をめざす活動で、整理(Seiri)、整頓(Seiton)、清掃(Seiso)、清潔(Seiketsu)を行う事をいいます。しつけ(Shitsuke)を加えて5Sも普及しています。

以下、各Sごとの解説

1 整理

「整理」は、必要なものと不要なものを区分し、不要、不急なものを取り除くことです。要るもの、要らないものに分けるためには、何らかの判断の基準が必要になります。現場の作業方法では必要と認められていても、その場所にその物が必要か、それだけの量が必要かなどの改善の余地はないかを検討し、よりよい方法が見つかればそれを新しい判断の基準、すなわち作業標準として定めてゆくことが出来ます。

2 整頓

「整頓」は、必要なものを、決められた場所に、決められた量だけ、いつでも使える状態に、容易に取り出せるようにしておくことです。工具・用具のみならず資材・材料を探す無駄を無くすことが出来ます。安全に配慮した置き方をすることが大事です。

3 清掃

「清掃」は、ゴミ、ほこり、かす、くずを取り除き、油や溶剤など隅々まできれいに清掃し、仕事をやりやすく、問題点が分かるようにすることです。転倒などの災害を防ぐことも大事なことです。機械設備にゴミやかすが付着していると製品に影響が出たり機械に不具合が発生することも懸念されます。

4 清潔

「清潔」は、職場や機械、用具などのゴミや汚れをきれいに取って清掃した状態を続けることと、そして作業者自身も身体、服装、身の回りを汚れの無い状態にしておくことです。


 厚生労働省からの通達や事務連絡、広報関係では5S運動は使われることなく4Sが使われています。

 身近な例では「令和6年度全国安全週間実施要綱」の10 実施者が継続的に実施する事項 (1)安全衛生活動の推進 ③ 自主的な安全衛生活動の促進

イ 職場巡視、4S活動(整理、整頓、清掃、清潔)、KY(危険予知)活動、ヒヤリ・ハット事例の共有等の日常的な安全活動の充実・活性化

 となっています。では5S運動の五つ目のSは、安全衛生キーワードでは、

5 しつけ
 「しつけ」は、決めたこと、教わったことを必ず守るように指導することです。挨拶や言葉づかい、話し方、服装のほか、作業標準を守る、ものを定められた位置に置く、機械機器は決められた方法で取扱操作するなどの仕事の手順を教育することを含みます。

とありました。

 では、日常会話など一般的に使用する意味では、しつけ(躾)は、どのような意味で使用されているのでしょうか。電子辞書では次のような説明となっていました。

躾:礼儀作法をその人の身につくように教え込むこと。また、その礼儀作法。「家庭の—がよい」「—が厳しい」(goo辞書)

逆に躾がなっていない場合は不躾(ぶしつけ)という言葉がありますので、これも参考に紹介しますと、

不躾:礼を欠くこと。無作法なこと。また、そのさま。無礼。「—ながらお願いします」「—な質問」(goo辞書)

となっていました。

 このほか電子辞書で「歴史民俗用語辞典」というものがあり、これによると「子供を訓育することで家庭で礼儀作法や生活技術を身につけさせること。」とありました。

 また、こども家庭庁のホームペ ージで「しつけ」についての説明がありましたので、これも参考までに紹介しますと『こどもの人格や才能などを伸ばし、社会において自律した生活を送れるようにすることなどの目的から、こどもをサポートして社会性を育む行為です。』とありました。

 本来のしつけの意味は、礼儀作法をその人の見につくよう教え込むことのようですが、日常的な解釈では、こどもに対しての礼儀作法云々 として使う場面かもしくはペットに対しての使用ではないでしょうか。例えば、犬に対するしつけといえば「人と犬が一緒に暮らすためのルールを教えること」の意味(大田区ホームページ:犬の飼い方についてから引用)となっていました。

 このため私は従業員向けの講演会の場では「しつけ」という表現については、こどもやペットに対して使用する言葉であると捉えられる可能性があること、また安全衛生管理上のルールやマナーの遵守を「教え込む」という上から目線での表現となってしまうことから5Sという用語は使わないようにしています。つまり中高年の人生の大ベテランも含む社会人の集まる工場や建設現場、各種サービス業の現場ではたらく人に対して しつけ という言葉を使用するのは大変抵抗があるからです。従業員を管理する側や経営する側の上から目線、上下関係などを意識した表現とも捉えられるからです。役職はあくまでも役割分担という捉え方からすれば上から目線的な表現にはつながらないのではないでしょうか。

 さて、この5S運動の しつけ というものがいつ頃から言われだしたのでしょうか。私の記憶では、平成の一けた台の時期に、『最近では4Sに加え5S運動としているところが増えているようだ、五つ目のSは「しつけ」らしい』という会話を当時の職場であった労働基準監督署内で先輩の監督官がしていたような記憶があります。このため30年以上前から言われているのだろうと推測している次第です。この時も しつけ という言葉が変にひっかかっていたことを覚えています。当時はパワハラという言葉はなく、セクシュアルハラスメント(セクハラ)という言葉が出始めていた頃であったかと思いますが、当時と今では人権感覚は異なりますし、死亡災害は2000人台半ば、死傷災害は20万件台と今とは比べ物にならないほどの発生でした。また、安全管理手法ではマネジメントシステムやリスクアセスメントという言葉も聞いたことがなかったような時代背景でしたので(本省では法改正を検討していたとは思います。)、安全衛生管理の管理という言葉の運用は上位下達で行うものという理解や安全衛生担当者の立場からは『言って聞かせるもの』という趣旨での運用が多かったような記憶があり、思ったように動いてくれないから「しつけ」から始めるのだというようなトーンで私の耳には入っていました。

 「整理」・「整頓」・「清掃」・「清潔」の実施や実現は個人の対応だけでなくグループ・企業という単位でも可能ですが、「しつけ」は誰が誰にしつけるのかというように主語と述語の関係が明らかにならないと実際の運用や活動にはつながらないものとなり、4Sの各取組みとは異質な響きを感じます。自己を律するという解釈もできるのですが、しつけの意味合いからは隔たりを感じてしまいます。

 いまも5S運動を標榜している事業場は少なくないとは思いますが、「しつけ」という言葉の本来の意味や「しつけ」という言葉の響きから安全管理を継続している事業場での運用は、令和風の意味づけのもと運用されているのではないかと思っていますが、みなさんはどうお考えになりますか。(ちなみに五番目のSはsustainable 「持続可能」という趣旨で運用していると聞いたこともあります。)

 私は各従業員が自らを律しながら安全衛生活動に参加することを求めたいため「律する」という表現を加えたいのですが、日本語の頭文字はRですし英訳したとしてもgovern、order、regularize、regulateなどが当てはまるようでいずれも頭文字はSにはならないようです。5W1Hというのがあるので4S1R(ヨンエスイチアール)というのはどうでしょうかね。

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