CONTENTS コンテンツ

化学物質のこれからの管理について思うことなど(PART2)

スタッフブログ

2025.02.11

[化学物質のリスクアセスメントの実施はどこで誰が行うのか]

 このブログのPART1(以下、PART1と記載します。)の最後に、化学物質のリスクアセスメントの実施は川上(製造工程上の上流から)で行うことが基本であると述べましたが、この意味について考えてみます。PART1の脚注ⅶではリスクアセスメントの実施後の改善対策の検討すべき事項の順番として 

  •  本質的安全対策の実施⇒段階的検討例 ・危険性・有害性が高い物質の使用の中止⇒・より危険性・有害性が低い物質への代替⇒・使用条件の変更⇒・化学物質等の形状変更 等と記載しています。

本質的安全対策について考えてみると、まずは危険性や有害性がある物質、例えば、生殖細胞変異原性 ・発がん性 ・呼吸器感作性などの有害性が認められる物質があり、取り扱う労働者に一定のばく露リスクが認められた場合は、その使用しようとしている物質の否定から検討する必要があることとなってきます。これはもちろん『使用の中止』や『危険性・有害性が低い物質への代替』から検討するということの裏返しでもあります。

 化学物質以外のリスクアセスメントではどうかというと、例えばプレス機械の場合、メーカーが製造段階でリスクアセスメントを実施しながら設計・製造。残留リスクについては最終的には取扱説明書や危険個所の表示によりユーザーに情報を伝達しユーザーサイドでは労働安全衛生規則に基づく対策のほか現場のこれまでの災害事例やヒヤリハット事例を活用しリスクアセスメントを実施、そして有効なリスク低減対策を優先順位を明らかにしながら対策を講じるという流れになっています。産業機械や装置については設計・製造時と現場におけるリスクアセスメントが求められています。(ただし、小規模のメーカーで規格がない機械や装置を製造する企業では設計・製造段階でのリスクアセスメントの概念すら知らないメーカーの存在も否定できないのが現実ですが。)一般的にプレス機械での本質安全化対策は金型内に指等が入らない隙間の幅とする、自動化をするということがありプレス機械を導入しない、プレス機械より危険性が低い機械の代替を検討するという手順にはなっていないこととなります。

 しかし、化学物質の場合は同じように考えることはできないためリスクアセスメントの実施も労働安全衛生法でも条文が異なるものとなっています。化学物質が同じ用途でも他の物質の使用を検討できる場合とできない場合があります。できる場合であったとしてもその検討には危険有害性の比較もありますが現実にはコスト管理や入手のしやすさ、今まで使ったものでない物質の場合は生産上の不都合の有無の検討など、生産部門内でも総合的な検討や購買部門との連携も必要となってきます。これを現場の職長クラスがリスクアセスメントを実施したとすると低減対策を本質的安全対策からの段階的検討というのは実現可能なのか、という疑義が生じることになってきます。

 また、代替品がない場合に現場がリスクアセスメントを実施し相当程度の低減対策を講じなければならないとの結論に達した場合なら、なおさら本質的安全対策の検討を行うことは研究開発部門から言わせると全否定されるという結果となり製品化そのものの否定があると社内の体制維持が困難となってしまうということになりそうです。

 一連の化学物質のリスクアセスメントの実施を現場にすべて任してしまうと、このように矛盾をはらんだ運用ということになってしまいます。では、研究開発部門の段階からリスクアセスメントを実施すれば、このような事態には陥らないわけですが、研究職に従事する者が商品化に際して現場の労働者の安全衛生対策まで考えて研究開発するということが本来求められる姿なのかもしれませんが現実はどうでしょうか。研究開発者に対して技術者倫理としてここまで求めることは理想ではありますが現実にはこうした検討はほぼ行われていないのではないかと推測しています。

 とはいえ、委託製造のように商品を企画する発注者が別にあり、その発注者が、製造段階での従業員に対する危険有害性をできる限り低減した物質を必ず使用するように厳しい契約を締結し、その発注者と製造の委託を受けた企業が良識的に連携し新商品を開発・製造する場合ならば、委託を受けた企業がこのような理想的なリスクアセスメントの結果を有意義に活用し段階的な低減対策を実施できるということになりそうです。

 このためには委託を受けた製造企業の研究開発部門が、使用しようとする化学物質の成分を徹底的に洗い出しリスクレベルの十分な把握を行い現場の労働者に使用させることの適否や現場でのリスクアセスメントによる低減対策がどこまで実施可能かまで見通しを立てるという検討を実施できれば、現場で行うリスクアセスメントは負担なく実施できるほか、現場ならではのばく露防止対策(局所排気装置+呼吸用保護具・保護メガネ・保護手袋の使用など)により徹底した低減対策の実現が可能となることが見込まれます。

 このようなケースは稀な事例と思われ実際の運用としては、他のリスクアセスメントの実施(化学物質以外のリスクアセスメントのこと)と同様に現場での実施が中心となり、低減対策は本質的安全対策の検討を除いた段階からの実施、つまり

  • 衛生工学的対策の実施⇒検討例 ・機械設備の防爆構造化、安全装置の二重化、着火減の排除、発散減の密閉化、局所排気装置/全体換気装置の設置等 
  • 管理的対策の実施⇒検討例 ・作業手順の改善、作業標準(マニュアル)の整備、定期点検等の整備、教育訓練の実施
  • 個人用保護具の使用

 となるため爆発火災に関する対策以外では、局所排気装置等の設置からという衛生工学的対策の検討から始めるというのがリスクアセスメントの低減対策のスタンダードな手法となってしまうのが現実のようです。

[法規制はどうなっているか]

 化学物質のリスクアセスメントは労働安全衛生法(以下、法と記載します。)第57条の3と関連する労働安全衛生規則でもリスクアセスメントの実施は義務付けられていますが、その実施後の低減措置は努力義務となっているため、法体系上はリスクアセスメントの実施まですれば法違反とならないこと。リスクアセスメントの実施者は事業者判断で差し支えないということ(但し化学物質管理者の選任のもと体系的に実施することが求められています。)になっています。

 ここで、化学物質の実際の取り扱い状況を踏まえ実効性を担保するために関係条文をよく読めばリスクアセスメントの実施後に必要な対策を講じなければならないことが理解されるものとなってきます。

 続きはPART3にて。

この記事をシェアする